米国債市場では、1 月~4 月期に、1788 年以降で最も大きな調整が見られました。その上、クレジット・スプレッドも拡大しました。債券市場におけるリプライシング(価格水準の調整)の動きは、あらゆる評価基準において非常に大きなものでした。世界情勢には厳しさがにじみ、弱気相場入りも容易に想定されます。その一方で、パニックやボラティリティが投資機会に結び付くこともあります。
既に投資機会が生じるようになった市場も散見されます。足元の水準で投資適格債市場には割安感が存在するため、ボラティリティに耐えられる投資家、長期的な投資のホライズンに備えることができる投資家にとっては、購入を始めるタイミングかもしれません。一方、ハイイールド債市場はその段階に至っていませんが、同市場の中でも信用力の高い銘柄は既に魅力的であると判断しています。
足元の混乱に至った経緯を振り返ると、パンデミック危機下においては、政策対応の効果は高い対処療法であると考えられましたが、大規模な財政政策と金融政策がセットで行われることによって、インフレという病の重要な要因の1つである「大盤振る舞い」の時代が、さらに延長される結果となったのです。
経済においては、過熱状態が続く分野も数多く存在しますが、先行指標は景気後退入りのリスクを一段と示すようになっています。消費者景況感指数、生産者景況感指数、イールドカーブの逆イールド化、住宅取得能力指数などは、軒並み状況の悪化を予兆しています。インフレ高進への対応として、金融政策が積極的に引き締められている現状を踏まえると、これは意外なことではありません。
現在、中央銀行にとって、需給バランスを改善しインフレ抑制を図るためには、金融環境をさらに引き締める以外の選択肢はありません。引き締め政策を終了する前に、インフレが低下に向かう明確な証拠を確認する必要があります。インフレ圧力がわけもなく自然に消滅する可能性は低いようです。
昨年、政策当局は「一過性(transitory)」という単語を用いて、自然に消滅するシナリオを期待していましたが、この単語もずいぶん前に否定されてしまいました。1955年以降の歴史が参考になるのであれば、ラリー・サマーズ氏とアレックス・ドマッシュ氏が初めに想定したように、インフレと労働市場が現在のように過熱する状況において、FRBが金融政策を引き締めると、確実に景気後退につながると結論付けざるをえません。
インフレは欧米諸国においてはオーバーシュートしていますが、中国では概ね抑制された状態が続いています。米国の場合、インフレ高進を後押しした主要な要因が、需給ギャップが既に解消された段階において過剰な財政刺激策が実行されたことであることは、極めて明白です。一方、欧州においても、過剰な財政支出という側面が存在しますが、それに加えて、ロシア・ウクライナの軍事衝突に起因する食品・エネルギー価格ショックと、外国為替のチャネルを通じたインフレの輸入という要因も存在します。
米国では、インフレが実質所得に対して1970年代以降で最大の打撃を与えています。中国のマクロ情勢が脆弱な状況において、急激な金融引き締めと相まって、景気後退に陥る真のリスクが存在するとロベコでは考えています。1970年代の事例とは、他にも類似点が存在します。当時の政策当局も、インフレは外的ショックに端を発したものであり、一過性のものであると主張していました。
1つ1つが一過性のショックであったにもかかわらず、総合的に個人のインフレ期待を押し上げる要因となり、インフレのダイナミクスを一段と定着させ、賃金と物価の自己強化的な上昇スパイラルを招く結果になりました。現時点でインフレが制御不能に陥る様子は見受けられませんが、そのような種類のインフレは対応が極めて困難になりうるため、中央銀行は必死に回避しようとしています。
企業の収益率は循環的に高い水準にありますが、これは景気減速直前の現象として珍しいことではありません。2020年から2021年にかけては、供給の制約と政策支援がマージンの拡大に寄与するなど、企業は堅固な価格決定力を確保していました。主要な地域においては、企業収益は2019年を20~40%上回る水準に軒並み達しました。
企業の健全性を判断する上で、金利感応度に注目することは重要なポイントの1つになります。バランスシート上で財務レバレッジが高く、変動金利型の負債が大きい企業の方が、脆弱性が高いことは明らかです。
ガスの供給が逼迫していることや、交易条件ショックを受けて電気やガスのユーロ換算価格が非常に高い水準に押し上げられていることを踏まえると、欧州の方が状況は厳しいようです。エネルギー危機は欧州諸国にとってマイナス要因ですが、同時に、ECBがFRBのように積極的に利上げを行う動きが抑制されることにもつながります。
ロベコは欧州の銀行をオーバーウェイトとしています。(2007~2009年の)世界金融危機が脳裏に焼き付いているお客様も多いため、同セクターについてコメントしておくべきでしょう。パンデミック危機の下で、公的保証付き融資という形で、大量の中小企業の信用リスクが銀行のバランスシートから政府系機関に移転されました。主に南欧諸国で多く見られ、イタリアでは残高がGDPの10%を上回る水準に達しています。
このため、デフォルト率が上昇した場合でも、損失の一部は政府が負担することから、銀行は部分的に保護されていることになります。銀行が難局を乗り切る上で、自己資本の健全性と、信用損失が過去の景気悪化時を下回るという見通しが、プラスに作用するであろうと判断しています。次の景気後退局面において、銀行がストレスの震源地になることはないという安心感が存在します。
投資適格債については、ポートフォリオのベータが1を若干上回っても問題ない水準に達しています。ハイイールド債と新興国債券のポートフォリオにおいても、ベータのアンダーウェイト幅を縮小していますが、全てのポートフォリオにおいてプラスにしているわけではありません。
ハイイールド債については、投資適格債よりも慎重な見方をしています。歴史的な基準で見ると、現在のハイイールド債と投資適格債のスプレッド比率はタイトであり、リスク調整後ベースでハイイールド債がアンダーパフォームする余地が残されます。とりわけ、信用力の低いセグメントが脆弱であるとみています。このセグメントでは、景気後退局面において、銘柄固有のリスクが高まり、ボラティリティが拡大する見通しですが、そのリスクは十分に織り込まれていません。
年初来、中央銀行の政策が資産価格の主要な決定要因となっていることは明らかです。物価を安定させ、(オーバーシュートしてデフレを引き起こさない範囲で)インフレ率を政策目標まで引き下げるために、金融政策をどの程度引き締めるべきかについては、大きな不確実性が存在しています。債券市場では、この不確実性を背景にボラティリティが大幅に上昇しています。
年初来の調整は、流動性が極めて乏しかった2020年3月や2008年9月の状況を連想させるものでした。また、投資銀行のバランスシートが世界金融危機前と同じではないことを、再確認するきっかけにもなりました。金融規制の強化、リスク管理の厳格化、現物有価証券保有の意欲低下といった要因によって、投資銀行は市場が急変した際のショック・アブソーバーとして機能しなくなりました。
このため市場では、誰もが出口を求める状況において、流動性が急激に悪化することになりました。このような市場環境において、逆張り的なスタンスを取ることの重要性が改めて浮き彫りになりました。他の誰もが同じ方向を向いているタイミングでは、出口を急ぐべきではありません。市場は脆弱な状況にあります。
総じて言えば、足元のバリュエーションは、クレジット市場に対していくぶん前向きなスタンスで臨むべきことを示唆していますが、その一方で、ファンダメンタルズとテクニカルは依然として脆弱な状態です。市場はQEの期間中に、FRBと戦うべきではないことを学習しましたが、今回の引き締め局面においても、同じことが言えます。インフレとの戦いに取り組むFRBは、副次的なダメージとして市場環境の悪化を受け入れようとしています。スプレッドが一段と拡大する展開も十分想定されることから、悪化した段階でベータをさらに引き上げることを検討する方針です。
景気後退入りのリスクが高まる中で、市場もそのシナリオに向けて変動しています。とは言え、現時点では、パニック売りや正当化されないほどの下落という段階には至っていません。そのような機会が向こう3~6カ月の間に生じることも、十分考えられます。
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