22-12-2022 · 四半期アウトルック

クレジット・アウトルック:金利上昇懸念から格下げ懸念へ

景気後退入りの確率が上昇する過程で、市場では銘柄間のばらつきが拡大する見通しです。相対的に質が高い銘柄は、質への逃避の動きの恩恵を受ける可能性があるのに対して、相対的に質が低い銘柄のデフォルト率は上昇する公算が大きいようです。

    執筆者

  • Sander Bus

    CIO High Yield

  • Victor Verberk

    債券及びサステナビリティCIO

  • Jamie Stuttard

    Head of Global Macro team and Portfolio Manager

ロベコのグローバル・マクロ・チームが 9 月に公表した四半期アウトルック「ツイン・ピークス」の中で説明したように、最終的に景気後退につながる利上げサイクルにおいて、一般に金利はクレジット・スプレッドよりも先にピークに達します。子細に見ると、金利は通常、FRBによる最後から2 番目の利上げのタイミング近辺でピークに達します。

現在は 2つのピークの間に位置すると、ロベコは考えます。インフレ圧力が弱まる中で、金利は低下に転じるようになり、一部の市場ではピークアウトした可能性があります。クレジット・スプレッドについても、10月半ば以降は大幅にラリーしていますが、企業財務に打撃を与えるような景気後退のシナリオが、市場において想定されるようになると、再び拡大に向かうと見られます。

景気後退入りの確率が上昇して、コンセンサスの一部を形成するようになる過程で、市場では銘柄間のばらつきが拡大する見通しです。相対的に質が高い銘柄は、金利の低下と質への逃避の動きの恩恵を受ける可能性があるのに対して、相対的に質が低い銘柄のデフォルト率は上昇する公算が大きいようです。

景気後退シナリオが完全に織り込まれ、スプレッドがピークに達した段階で、ハイイールド債を含めてアウトライトでオーバーウェイトとするタイミングが到来します。そのタイミングは、デフォルト率のピークよりもかなり早い段階になることが一般的です。

欧州では国債の供給が増加する結果、ユーロのスワップ・スプレッドはさらに縮小すると予想しています。ユーロの投資適格債については、クレジット・スプレッド全体に占めるスワップ・スプレッドの比重が大きいことから、緩やかなオーバーウェイトとすることに問題はないと見ています。その一方で、サイクルの進行状況を踏まえ、タイトな水準で取引されている市場に対しては、より慎重に構えています。

米国と欧州は景気後退を予想

ロベコは基本シナリオとして、米国と欧州は2023年に景気後退を経験すると予想しています。両地域は同じ年に景気後退局面を迎え、互いに影響を及ぼし合うと見ていますが、根本的な原因は異なる見通しです。米国では、典型的な好不況サイクルが実現する可能性が高いのに対して、欧州では、エネルギー供給ショックが景気後退の主因になると見られます。

FRBとECBは、インフレ率が政策目標に達する見通しを確認するまでの間、金融政策を引き締める方針を掲げています。インフレの高進が一服したことは明るいニュースであり、このことは、利上げサイクルの終わりが視野に入るようになったことを意味します。しかし、だからといって、FRBの利下げが近づいているわけではありません。

賃金の水準が、より正常でインフレ目標と整合的な水準まで低下する兆候を確認するために、FRBは特に労働市場の動きを注視すると見られます。そのような状況になるには、失業率の上昇が前提条件であり、ひいては景気後退入りが避けられないとも考えられます。

中国経済は異なる段階にあります。先般、「ゼロコロナ」政策に終止符が打たれました。直感に反することですが、規制の緩和を受けてウィルスが急速に広がり、消費者が自ら移動を控える結果、経済活動が短期的に停滞する可能性があります。もっとも、この先数カ月以内には、中国経済は回復する見通しです。

世界経済が景気後退に陥るのを食い止める機関車としての役割を、中国は取り戻すことができるのでしょうか。ロベコは懐疑的に見ています。端的に言って、中国のフィスカルインパルスは力強さを欠いています。また、財政状況を見る限り、過去に景気刺激策が求められたタイミングで行ったような形で、財政支出を増やすことは容易でありません。

結論として、ファンダメンタルズについて前向きになる理由は、現時点では見当たりません。

マーケット・ラリーを経てバリュエーション評価を引き下げ

「TINA(他に選択肢はない:There is no alternative)」の時代が終わったことは明らかです。足元で、米財務省短期証券(Tビル)の利回りでさえも4%に達するようになりました。これは、1年前までは、ハイイールド市場以外では見当たらなかった水準になります。

バリュエーションが特に魅力的な市場として、欧州の投資適格債(特に金融債)が挙げられます。この市場では、スプレッドが中央値を上回る水準で推移しています。また、米国の同セクター対比でも、割安感が存在します。

先進国市場において景気後退入りが基本シナリオとなる中で、「クレジット市場の相対的にリスクの高いセグメントに対して、景気後退はどのような影響を及ぼすか」が重要な問題となります。スプレッドがどの水準に達した段階で、買い始めるべきでしょうか。過去のデータから、クレジット・スプレッドのピークはデフォルト率のピークよりも早期に到来する傾向が、確認されています。

デフォルト率は弱気な局面に入ったばかりであり、ハイイールド債に積極的に投資するのは時期尚早と思われます。足元でハイイールド債のスプレッドは、一般的な景気後退局面においてピークとなる水準(1,000bp)を大幅に下回ります。

足元でハイイールド債市場の質が向上しているため、デフォルト率は低い水準となり、市場スプレッドのピークもおそらく低い水準にとどまると見られます。

図表1:市場のサイクル

図表1:市場のサイクル

マーケット・セグメントに対する我々の見解のマッピング 
出所:ロベコ、2022年12月

市場ではボラティリティが非常に高いため、バリュエーションの評価も短い時間で変わる可能性があります。10月半ば頃には、今よりも多くの市場に割安感が存在していましたが、最近6週間の力強いベアマーケット・ラリー(弱気相場における上昇局面)を経て、ユーロの投資適格債を除いて、評価を引き下げざるをえないと判断しています。

中央銀行が引き続き市場を牽引

利上げサイクルの終わりが近いと見られるのに対して、QTのサイクルは始まったばかりであり、FRB、ECB、イングランド銀行はそれぞれ、バランスシートの縮小に着手しています。

米国では、クレジット市場は、供給が増加する国債と競合するため、QTの影響は間接的なものとなる見通しです。一方、欧州市場では、イングランド銀行は「社債買い入れプログラム(CBPS)」を通じて英ポンドの投資適格債の発行残高の5%を買い入れ、ECBは「コーポレート・セクター買い入れプログラム(CSPP)」を通じてユーロの投資適格債の15%を保有しています。これらの需要は消滅し、反転しつつあることから、クレジット市場では新たな買い手が早急に必要になります。

マイナス要因を相殺する材料としては、クレジット投資家の間で保守的なポジショニングがコンセンサス化していると見られること、多くの投資ポートフォリオでは現金残高が高い水準にあることが挙げられます。

中央銀行が引き続き市場を牽引している、というのがテクニカルに関する結論になります。中央銀行が市場から流動性を吸い上げ続ける限り、導かれる結論は保守的なものにならざるを得ません。

2023年に向けて辛抱が肝要

景気後退入りの確率が上昇する中で、市場では銘柄間のばらつきが拡大する見通しです。相対的に質が低い銘柄のデフォルト率が上昇する一方で、相対的に質が高い銘柄は、いずれ金利の低下と質への逃避の動きの恩恵を受ける可能性があります。

ロベコでは、質の高い銘柄を選好する戦略を推奨しています。

景気後退シナリオが完全に織り込まれ、スプレッドがピークに達した段階で、ハイイールド債を含めてアウトライトでオーバーウェイトとするタイミングが到来します。そのタイミングは、デフォルト率のピークよりもかなり早い段階になることが一般的です。

金利の上昇懸念とボラティリティは峠を越したものの、クレジットのボラティリティは高止まりする見通しであり、2023 年には投資の好機が到来する可能性が高いと見ています。いまは辛抱が肝要です。

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