20-09-2022 · インサイト

債券アウトルック:ツイン・ピークス

過去50年間においては例外なく、景気後退局面におけるクレジット・スプレッドは、国債利回りがピーク・アウトした後にピークに達しました。“今回は違う”ことにはならないとロベコは見ています。

勢いを増す引き締めの動き

ロベコは年初から一貫して、金融政策の引き締めに焦点を当てつつ、中央銀行が直面するジレンマ( 「チェックメイト(Czech mate)に陥る」)とその後のインフレ対応を優先する政策判断(「インフレ・ゲーム」)について論じてきました。2023年が視野に入る中で、このテーマは変わらないどころか、むしろ重要性を増しています。FRBが今秋に引き締めを終了するという市場全体の期待は、ジャクソンホール会議におけるパウエル議長の発言によって打ち砕かれました。

ECBが「段階的な変化」を継続するという期待も、9月のECB政策理事会においてラガルド総裁がタカ派に転じたことによって、覆されました。一方、インフレの上昇ペースが緩やかになるという期待も、8月に発表された米国の消費者物価指数(CPI)が高水準に達したため、後退することになりました。労働市場の逼迫感が徐々に和らぎ、多くの市場参加者が望むソフトランディングが実現するという期待は、過度に楽観的だったように思われます。過去16カ月間の非農業部門雇用者数は軒並み29万人を上回り、直近3カ月間の平均は40万人近くに達しています。

インフレ率、賃金、雇用者数に関する指標が上昇するほど、中央銀行は景気後退入りを誘発するような水準まで、金利を引き上げざるを得なくなります。経済指標の下振れは景気後退への流れを、経済指標の上振れはさらなる利上げの必要性を、それぞれ示唆します。中央銀行が「どちらに転んでも損はしない」ように努める中で、インフレとの戦いに勝利するまでは、ソフトランディングする可能性は極めて低いようです。

言うまでもなく、金融政策の引き締めがもたらすのは、経済的な影響だけではありません。市場にとって、金利を(ユーロ圏でさえも)75bp刻みでインフレ抑制的な水準まで引き上げることは、資金繰り環境の逼迫を意味します。同時に、量的引き締め(QT)の動きが加速する中で、市場のボラティリティはさらに高まりつつあります。それでは、どのようにポジションを構築するべきでしょうか

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金利戦略

イールドカーブに注目すると、マクロ経済と政策の動向を背景に、短期ゾーンの金利には短期的な上昇圧力が残存しています。ロベコが年初から一貫して予想してきたように、ユーロのイールドカーブは大幅にフラットニングするようになりました。第1四半期にチェコで始まった世界的なフラットニングの流れは、英国のSONIA(ポンド翌日物平均金利)、韓国、米国の国債の市場へと波及し、足元ではユーロの2年/10年のスワップ・カーブが逆イールド化しています。

もっとも、このようなフラットニングや逆イールド化の動きは、転換点を迎える公算が大きいようです。1968年から82年にかけて発生した4回の景気後退局面においても、債券利回りは大幅に低下しました。現在の市場価格に基づくと、原油価格は2023年3月までに前年比マイナスの水準となる見通しです。また、コモディティ市場全体の地合いも弱含むようになり、経済成長見通しに暗雲が立ちこめる中で、銅、木材、各種の循環的な原材料の価格は、年初から大幅に下落しています。

米国では、総合インフレ率の上昇ペースは緩やかになりつつありますが、各種コア指標(賃料や賃金を含む)の上昇を受けて、FRBが当面引き締めを継続することは確実視されています。

債券相場は転換点に近づいているようであり、また、景気後退局面においては債券のリターン見通しが大幅に改善する傾向を踏まえて、デュレーションに関連する3つのシグナルを検討しました。ポートフォリオの構築に際しては、イールドカーブ戦略とデュレーション戦略のメリットを引き続き区別して考えています。

イールドカーブ戦略とデュレーション戦略

以前にも言及したように、大規模なデュレーション・トレードから収益を上げるためには、経済成長の短期見通しとインフレの長期見通しという、2つの要素を正確に判断する必要があります。一方で、イールドカーブ戦略においては、短期見通しが大きな役割を果たします(インフレ・プレミアムは概ねイールドカーブ全体に存在し、金利とインフレの長期的な水準はある程度は政策金利に織り込まれていることが理由)。ロベコの見解では、インフレの長期見通しよりも経済成長の短期見通しの方が、経済指標から読み取りやすいと考えられます。

インフレの長期見通しに関しては、疑問は解消されていません。賃金の上昇は二次的な影響につながるでしょうか(オランダ鉄道の労働組合が9.25%の賃上げを勝ち取った最近の事例を参照)、需要の急減を受けて、物価は急速に下落するでしょうか(原油価格は3月以降に30%下落)。どちらの要因が優位になるでしょうか。リスクはどちらかと言うと対称的であり、これらの未解決の問題に対して大きなポジションを取ることは、顧客の資金を運用する上で適切ではないと考えています。年初来の債券のトータルリターンは、いくつかの指標において、既に1788年以降で最悪の水準に落ち込んでいます。

とは言え、デュレーションのトレンドが継続するとの見方から、金利上昇の勢いを追いかけようとするのは、リスクが高いと見られます。第1に、前回の四半期アウトルックを公表してから12週の間に、金利水準は大きく転換しています。一例を挙げると、ドイツ2年国債利回りは1.2%から0.2%に低下した後に、1.5%を超える水準まで戻しています。一方、2点目として、ロベコが今回のグローバル・マクロ四半期アウトルックのセッションにおいて幅広く分析したところ、転換点を迎えつつあるものの、まだそのタイミングではないとの結論が導かれました。

これに対して、イールドカーブの見通しが非対称的になる時点まで逆イールド化が過度に進行するポイントを特定するための、ヒストリカルな分析の枠組みを利用するアプローチは、リスク・リターンを捉える上で引き続き適切であると考えています。

インフレが高い水準にあるか(1965~82年など)、中程度の水準にあるか(1982~90年代半ば)、低い水準にあるか(1990年代半ば~2020年)を問わず、イールドカーブには周期的に平均回帰する傾向があります。したがって、過度に逆イールド化した場合には、いずれ順イールド化するか、再びスティープニングする可能性が高くなります。このため、米国債のイールドカーブが大幅に逆イールド化した段階で、スティープニングのポジションを構築することを推奨します。来年上期に向けて、単独で100~150bp程度のアルファの獲得が期待可能なトレードであると考えています。これに対して、ユーロのイールドカーブには、さらなるフラットニングの余地があると見ています。

債券のアセットアロケーション

前回の四半期アウトルックにおいて指摘したように、「ハイイールド債のスプレッドには景気後退入りのリスクが織り込まれていません」。その後7月から8月初旬にかけて、FRBが今秋にもハト派に転じるとの期待を背景に、クレジット市場では買い進もうとする動きが見受けられました。ロベコはこの動きが合理的でないと考え、上昇局面を捉えてポジションを削減しました。その後8月半ば以降に、スプレッドは拡大に転じています。

今年に入って、クレジット市場が割安になりつつあることは確かですが、年初までは2008年以降で最も割高な水準で推移していました。米ドルのBBB格債券のオプション調整後スプレッド(OAS)、ユーロのBBB格債券のアセット・スワップ・スプレッド(ASW)、ハイイールド債のスプレッドは、直近25年間の平均的な水準(あるいはややタイトな水準)で推移しています。歴史が参考になるのであれば、平均的なスプレッドでは景気後退のリスクに見合った水準とは言えません。

先行きを展望すると、金融政策の見通し、クレジットの弱気相場を反転させるために必要な条件、財政政策に劇的な変化を生み出す力が小さいことを踏まえ、スプレッドが縮小に転じるとの見方は楽観的過ぎると考えられます。景気後退局面や危機時の水準で取引されているのは、ユーロのスワップ・スプレッドに限られます。

加えて、時系列の問題が存在します。過去50年間においては例外なく、景気後退局面におけるクレジット・スプレッドは、国債利回りがピーク・アウトした後にピークに達しました。何カ月もの、あるいは何年もの時間差が存在することが一般的でした。“今回は違う”ことにはならないとロベコは見ています。初めに国債利回りがピークに達した後に、クレジット・スプレッドがピークに達する“ツイン・ピークス”のシナリオを想定しています。問題は、数カ月間の時間差が生じうること、そしてその時間差の間にスプレッドが広がりうることです。

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