2年間にわたるパンデミック危機の下で多くの経済指標に歪みが生じたため、ロシア・ウクライナ危機が深刻化する前の段階から、経済評価の作業には困難が伴いました。このためロベコでは、前回のクレジット四半期アウトルックに「不完全な情報に基づく不完全な予測」というタイトルを付けました。ロシアによる軍事侵攻、原油価格の上昇、サプライチェーンのさらなる混乱を考えると、ファンダメンタルズに関してさらに幅広い可能性を評価する必要が生じていることは明らかです。方向性としては、経済の下振れリスクが顕著に高まり、景気後退入りのリスクが公然と議論されています。
昨年12月初旬に前回のアウトルックを公表して以来、バリュエーションは著しく割安になりました。より詳しく分析すると、欧州のスワップ・スプレッドの拡大によっても裏付けられるように、流動性リスク・プレミアムが大幅に拡大しているとの結論が導かれます。
テクニカルに注目すると、主な懸念材料としては、先進国市場の中央銀行が後手に回っていることが挙げられます。今回の引き締めサイクルの開始時期が遅れるなど、FRBは明らかに政策判断を誤ったとロベコは考えています。ここで主なリスク要因としては、向こう数カ月間に予想を上回る規模の利上げが行われることや、インフレの高進が長期化するだけでなくピークアウトの水準が切り上がることが考えられます。現在の状況は、「ディフェンスの戦術において来たるべきリスクを適時に想定できなければ、非常手段(すなわち、タックル)に訴えざるをえない」という、イタリアのサッカー選手パオロ・マルディーニ氏が表現した状況に類似しています。
ロベコは現在、総合的に判断して、投資適格債のベータはやや高い水準としています。リスク・バジェットの第1四分位の範囲に収まる限りは、ベータが1を小幅に超えても支障はありません。一方、ハイイールド債に関しては、特に米国市場では楽観的な見方が再び浮上するようになり、スプレッドは過度にタイトな水準で取引されていると考えています。欧州ハイイールド債のクレジット・スプレッドはここ数カ月間で割安になりましたが、全体としてベータをアンダーウェイトとするポジショニングを引き続き選好しています。
人道的悲劇
初めに、ウクライナにおける不当な軍事衝突の犠牲者の方々全てに哀悼の意を表します。繰り広げられる悲劇を前にすると、定例のクレジット四半期アウトルックが何の意味を持つのかとも感じますが、これはロベコの使命であり、お客様のために適切なポジショニングを保つため、いつも通り金融市場の冷徹な分析に努めたいと思います。
今回の危機によって、欧州経済は深刻な打撃を受ける見通しです。サプライチェーンの問題が存在するだけでなく、欧州諸国がウクライナからの農産物とロシアからのエネルギーに強く依存していることは、言うまでもありません。
米国経済は回復局面に入ってからまだ2年も経過していませんが、既に過熱の域に達しています。労働市場は概ね回復し、この分野でのFRBの役割は終了しました。また、賃金の伸びは広がりを見せるようになりました。政策当局や市場参加者にとっては、インフレの動向が共通した重要な問題であると思われます。
中国経済についても一言コメントしておきましょう。ロベコは以前から、過剰債務によってもたらされた経済成長の「奇跡」の持続性について懸念していましたが、この奇跡が終焉を迎えたことは明らかです。これ以上債務を増やしても、中国政府が直面するマクロプルーデンス上の懸念を悪化させずに、5.5%の成長目標を実現することは難しいでしょう。不動産セクターの崩壊は、資本配分の失敗と過大なレバレッジを抱えるシステムの症状と言えます。中国政府にとって、社会の安定維持が最大の目標であることに変わりはなく、何らかの形で刺激策を実行する可能性は高いでしょう。
インフレ率は無視できないほど高い
次に、石油ガス価格上昇の影響について考えてみましょう。原油価格の急騰によって、GDP成長率は何年かにわたって3%程度押し下げられるという推計も一部に存在します。このように、エネルギー・ショックは総合インフレ率を押し上げるだけでなく、経済成長の足かせになることは明らかです。この場合、中央銀行は厄介な立場に置かれます。端的に言って、インフレ率は無視できないほど高く、PCE(個人消費支出)デフレーター・ベースで2%という政策目標を掲げるFRBは、対応せざるをえません。このため、短い期間に利上げが連続的に行われる公算が大きく、同時にバランスシートの縮小が進む結果、経済成長に悪影響が及ぶおそれがあります。
利上げサイクルと石油ショックがいずれも景気後退の引き金になりうると理解しています。その確率は相応に高く、確実に上昇していると考えています。
米国のエコノミストであるラリー・サマーズ氏とアレックス・ドマッシュ氏が指摘するように、過去の事例を振り返ると、インフレ率が4~5%を上回り、失業率が5%を下回る状況においては、ほとんどの場合、景気サイクルはハードランディングに突入しています。中央銀行はブレーキを踏むとみられますが、適切な選択肢はほとんどありません。
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バリュエーションは調整
今回は、かなりの時間をかけて、現在のクレジット市場に内在する相対価値の理解に努めました。ロベコの分析によると、クレジット・スプレッドを始めとする市場価格には、量的緩和の終了と量的引き締め(QT)の数カ月先における開始見通しが反映されています。ロベコではこれを「2018年」シナリオと呼んでいますが、他にも織り込まれていないシナリオがいくつか存在します。
1つ目は、今回の原油価格ショックが1970年代型のインフレと景気後退という流れにはならないかもしれませんが、足元で繰り広げられる供給主導型のオイル・ショックと当時の状況を比較すると、景気の減速とスプレッドの反応がより深刻になる可能性が懸念されます。
2つ目は、ロシア国債のデフォルト・シナリオです。名目ベースでは過去最高規模のデフォルトとなりますが、リスク・プレミアムに完全に織り込まれたとして消化していいものか、それほど確信は持てません。
3つ目は、中国の経済成長率が政府の公式目標(5.5%)を下回るシナリオです。ロベコでは、目標が達成される可能性は低くなりつつあるとみています。最近10年間の世界のGDP成長率に対する限界的な寄与度の半分以上を中国が占めていることから、このシナリオが実現した場合も、失望を呼ぶかもしれません。
バリュエーションに関する結論として、スプレッドは中央値に近い水準に戻りました。これは、過去7四半期において最もワイドな水準に相当します。そのためクレジット・リスクのショートをもはや選好していませんが、リスクをロングするには、リスク・プレミアムの拡大が必要になります。銘柄とセクターの選択にフォーカスしつつ、スプレッド構成の地域間格差にも注目しています。
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出所:ロベコ、2022年3月
テクニカルを注視
今回の四半期アウトルックのセッションにおけるテクニカル関連の議論は、近年では最も興味深い内容でした。中央銀行が政策対応をさらに前倒しで行うことに対する懸念、逆イールド化が発するメッセージ、さまざまな地政学イベントについて議論しました。
中央銀行には金融政策の引き締めを通じて石油ショックに対応する傾向があり、歴史的に石油ショックと持続的な利上げサイクルの後には景気後退が続くことがあります。石油ショックが需要サイドのショックではなく、外因的な供給サイドのイベントである場合には特に、経済成長には深刻なリスクが生じます。見通しはそれほど良好ではないようです。
中央銀行が大量の流動性を供給してきたことを踏まえると、これが吸収された場合にボラティリティが上昇したとしても、意外なことではありません。流動性の吸収を企図する中央銀行にとって、非常に厄介なタイミングですが、インフレが高進する中で、他の選択肢は極めて限定的です。
慎重な姿勢を維持
総じて言えば、足元のバリュエーションは、クレジット市場に対していくぶん前向きなスタンスで臨むべきことを示唆しています。しかしながら、パオロ・マルディーニ氏がかつて述べたように、「タックルをしなければならない時点で既にミス」になります。テール・リスクが視野に入る中で、石油ショックの全容が明らかになっていないため、やや慎重にアロケーションを調整しています。
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