3月のグローバル債券マクロ・アウトルック「 米国で実現するもの」において、米国債市場ではバリューの蓄積が始まったことを指摘しましたが、実際、早晩蓄積される見通しです。これは、米国における大規模な財政支出の発表、先進国市場における景気回復、経済活動の再開、インフレのベース効果の顕在化に伴う投資家の確証バイアスを背景に、第1四半期に割安化が急速に進んだ流れに続くものです。
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引き続きFRBが次の段階に進むのを待つべき
ファンダメンタルズの観点から実質利回りをロングする前に、FRBが大方の予想通りにテーパリング(量的緩和の縮小)の方針を発表するのを待つべきと指摘しました。ロベコでは数週間前に米国債のショート・ポジションから益出しを行いました。今年度の米国経済は少なくとも36年ぶりの高成長が見込まれているものの、前回のアウトルックから3カ月が経過した今、FRBが次の段階に進むのを待つべきであると引き続き考えています。結果的に、イングランド銀行と中国人民銀行がテーパリングを発表したのに対して、FRBは3カ月先送りする形となりました。
FRBにとっては、2013年の悪夢が重くのしかかり、過度に慎重なスタンスをとっているのだとロベコでは考えています。もっとも、新しい「柔軟な平均インフレ目標(FAIT、Flexible Average Inflation Targeting)」の枠組みの下で、経済指標や市場からの圧力によって強く後押しされない限り、段階的なプロセスが採用される点については考慮する必要があります。実際、激動の2020年とは対照的にレンジ相場を続けるクレジット市場と同じように、第2四半期の金利市場は実質的に休眠状態でした。市場というものは時に全力疾走し(2020年上期の債券市場全般や今年1~2月の米国債市場)、時に停滞するものです。3月以降、債券市場は概ね停滞しています。とは言え、2014年夏や2017年下期の出来事が想起されるように、過去の事例を見る限り、金融政策はいずれ緩和され、ボラティリティも上昇することになるでしょう。このため、今後も金利のボラティリティは低い水準で推移するとの見方からキャリートレードを長期化させる方針には、おそらく危うさが伴います。
デュレーションに注目すると、市場参加者のポジションは、現時点では眉唾とも思われるインフレの長期的な上昇見通しを拠り所として、スティープ過ぎるきらいのある各国国債のショート・ポジションを、過度に膨らませていると思われます。前向きな動きとして、インフレに過剰反応する向きもありますが、現在までの動きは概ね1年前からわかっていたことです。コロナ前には1バレル=70ドル程度だった短期年限の原油先物価格は、一時マイナスに陥ったものの、再び同70ドル近辺まで回復しましたが、どちらの水準がより注目に値するべきかについて、ロベコではコンセンサスとは異なる見方をしています。総合インフレ率が前年同月比5%上昇したことに、大方の注目は集中していますが、実質的に営業停止状態にあった昨年初夏から今年初夏にかけての航空料金や旅行料金の上昇率には、ほとんど意味がありません。ロベコが昨年議論したように、(ベース効果に鑑み)水準とフローの違いこそが意味を持ちます。また、予測において問題となるのは、ひとたび上方にシフトしてしまうと、確率分布の右側のテールにおいてサプライズが生じにくくなることです。
さらに、各国の中央銀行は足元のインフレ動向が「一時的」なものであるとの立場をとり、FRBもECBも様子見の姿勢に構えています。債券市場のイールドカーブがスティープな状態において、デュレーションに弱気な向きにとっては、ネガティブ・キャリーを抱え、我慢にも限界があるなかで、最近の相場において損切りを余儀なくされています。
はっきりしていることとして、ここ数週間の金利の低下はファンダメンタルズに関連する動きというよりも、市場のテクニカルに関連する動きであるとロベコでは考えています。債券市場において弱気筋のポジショニングに偏りがみられることや、年初に大きな変動が生じたことを踏まえると、これは十分に理解できるものです。また、ショート・ポジションが実を結ぶ見通しは、市場によって大きく異なるとも考えています。注目すべき評価の座標軸としては、絶対的な利回り水準よりもカーブの形状が重要であると考えています。このため、現在、米ドルや米ドル・ブロック通貨のカーブよりは少なくともフラットである英国債のショート・ポジションや、ユーロ圏国債の2年/5年のショート・ポジションに注目しています。債券市場について議論する場合、あるいはアクティブな見解を持とうとする場合、10年物米国債に注目が集まりやすいのですが、投資機会を見出すには、イマジネーションやグローバルな視点をいくぶん前面に出すことが求められます。引き続き、クロス・マーケットやカーブ・トレードの方が単純なデュレーションのポジションよりもインフォメーション・レシオが高いとみており、第2四半期の動向を受けて、同様の見方が広がり始める可能性もあると考えています。
クレジット市場は退屈な展開か弱含む展開のいずれかになる見通し
クレジット市場では、投資適格債とハイイールド債のスプレッドはいずれも2007年第2四半期以降で最もタイトな水準にあり、タイトニングの動きは概ね一巡したようです。この3カ月間は、金利、クレジットともいくぶん方向感に欠ける相場でしたが、金利市場では引き続き魅力的なアクティブ・トレードの機会が提供されているのに対して、クレジット市場では(特にスプレッド縮小の方向において)大きな動きはみられないと考えています。2020年12月の時点でも指摘したように、2021年のクレジット市場は退屈な展開か弱含む展開のいずれかになる見通しです。
下期入りを控えて、ロベコは多くの点において市場のコンセンサスとは異なる立場にあります。米ドル安見通しには依然として疑問が残るほか、多くの場合、長期的なインフレ上昇仮説の論拠は脆弱なようです。また、金利上昇のコンセンサス見通しにおいては、名目金利のスポット・カーブの影にある金利市場のダイナミクスが軽視されているようであり、中央銀行がテーパリングを進める期間において、ブレークイーブン・インフレ率は低下する傾向があるようです。5年先5年のフォワードレートには、景気後退の翌暦年にピークに達する傾向がみられると考えています。総じて言えば、FRBとECBがそれぞれジャクソンホール会合/9月の政策理事会に向けて量的緩和/「パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)」の方向性を検討するなかで、慎重な姿勢が必要になるでしょう。また、市場のコンセンサスに従ったトレードは苦戦を強いられる可能性があり、その結果、投資機会が生じることもあるでしょう。第3四半期に入って市場が全力疾走に転じることはないにしても、停滞状態が永遠に続く可能性も低いでしょう。
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