前回のクレジット四半期アウトルックでは、経済活動再開のプロセスがもたらす混乱の大きさと予測の難しさを踏まえて、経済の予想に関連して「謙虚」という言葉を使いました。その後3カ月が経過しましたが、引き続き謙虚さの必要性を感じています。
足元の環境では予想が困難であることに加えて、予想の意味合いにも疑問が残ります。金融および財政の政策当局が舞台裏から操る金融抑圧の環境下で、ファンダメンタルズは意味を持つのでしょうか。市場では、長年にわたってファンダメンタルズの役割が過小評価されてきたようです。1つのシナリオとして、中央銀行が市場に対する統制を弱めるタイミングにおいて、ファンダメンタルズと相場の関係性が復活するという展開が想定されます。したがって市場にとっては、統制はいつ弱まるのかというポイントが重要になります。
クレジット・スプレッドが歴史的に最もタイトな水準まで縮小したことを踏まえて、慎重な姿勢でポジショニングに臨むことが肝要であると考えます。ロベコでは、他のセクター対比で金融機関のクレジットを選好しています。
市場全体がインフレ見通しにフォーカスしているため、その他の潜在的に重要な市場の変動要因が見過ごされる恐れがあると感じています。ここ15年余りの間、中国は世界経済の重要な成長エンジンでした。足元で転換点に差し掛かったようであり、中国国内の動向を注意深く見守ることがこれまで以上に重要になっています。
ゼロ・コロナ戦略は昨年こそ効果を発揮したものの、現時点では両刃の剣のように思われます。ウイルス感染は今後も顕在化するはずであり、その都度、厳格な封じ込め措置によって人の移動や個人消費が打撃を受けることになります。もっとも、ロックダウンの影響を受けやすいのは製造業よりもサービス業であり、景気減速の要因が新型コロナウイルスに限定されるのであれば、世界経済にはそれほど大きな影響が及ばないと考えられます。中国のサービス・セクターは大部分が国内で完結されるため、関連商品が取引されることはありません。とは言え、不動産市場への規制強化の対応を迫られる中国経済にとって、ゼロ・コロナ戦略の長期化は好材料にはなりません。
不動産市場にはバブルの兆しが芽生え、モラルハザードの広がりを踏まえると、規制強化が必要であることは明白です。現在、市場では、当局の規制が過剰であるかどうか、Evergrande(中国恒大集団) の再編によってどのような影響が生じるのかが、不確定要素となっています。
中国では、政策の転換も波乱要因の1つとなっています。中国政府は一方向の経済成長から、持続可能性と社会的平等に配慮したバランスのとれた経済成長へと、軌道修正を図りたいと考えています。この政策は「共同富裕」政策と呼ばれ、段階的に施行される見通しです。一部のセクターに対する統制は強まるとみられますが、だからといって中国から民間市場が消滅するわけではありません。経済にとって民間市場は極めて重要な存在です。
とは言え、政策の転換によって、大手テクノロジー、ゲーム、学習塾などのセクターには深刻な影響が及ぶとみられます。低所得者の賃金引き上げや、所得に占める労働者への配分比率の引き上げという政策目標が実現した場合、世界の製造業のハブとしての中国の役割にどのような変化が生じるのかは不透明です。その一方で、ロベコでは、この変化が国連が定めた持続可能な開発目標(SDGs)の1、2、8、(特に)10に貢献する点に注目しています。サステナブル投資の運用会社として、2060年までのカーボン・ニュートラルを目指す公式な政策目標は、賞賛に値すると考えます。
「共同富裕」政策は、段階的に施行される見通しです。一部のセクターに対する統制は強まるとみられますが、だからといって中国から民間市場が消滅するわけではありません。経済にとって民間市場は極めて重要な存在です。
いずれにしても、資本市場では、気候変動との戦いが重要なテーマとなっています。国際エネルギー機関(IEA)の推計によると、排出量ネットゼロを実現するには、年間5兆ドル規模の投資が必要になります。このように大規模な投資が実行されれば、経済成長率とインフレ率は押し上げられるため、セキュラー・スタグネーション(長期的停滞)からの脱却につながるとの見方も、エコノミストの間には存在します。また、ミクロ・レベルで見ると、企業の経営戦略において気候政策はますます重要な役割を果すようになっています。
中国経済減速のほかにも、不確実性の源泉は世界中に数多く存在しています。何よりも、パンデミック危機は終了したわけではありません。当面の危機は克服されたようですが、サプライチェーンのさらなる混乱などを通じて、景気回復が阻害される可能性は残ります。
市場ではインフレの動向が重要なテーマであり、グローバル債券マクロ・アウトルック「トンネル・ビジョン(視野狭窄)」においても幅広く議論されました。ここで指摘したいことは、インフレに関する議論がこの先数カ月程度で決着しない見通しであることです。インフレには双方向のリスクが明確に存在するため、ボラティリティを上昇させる要因になります。インフレの持続性と労働市場の逼迫状況を示す指標として、賃金インフレの動向には注目する必要があります。これは欧州と米国の両方に当てはまることであり、構造的な賃金上昇の兆しが生じれば、FRBとECBに金融引き締めの加速を促す重要なシグナルとなりえます。
サプライチェーンの制約が多くのセクターに打撃を与える状況は、インフレの議論とも密接に関連しています。当初は、半導体の供給不足が自動車業界に与える影響が注目されていましたが、足元では、コンテナからトラック運転手、電気、マットレスの製造原料に至るまで、多くの投入資源が不足しています。それぞれ状況は異なりますが、端的に言うと、供給不足によって需要が満たされていません。需要が総じて底堅いため、多くの場合、企業は投入コストの増加を価格に転嫁することが可能です。
第3四半期には、クレジット・スプレッドは非常に狭いレンジで推移しました。例外は中国のハイイールド債券市場であり、Evergrande (中国恒大集団)の問題と中国経済の軟化の兆しを受けて、スプレッドは大幅に拡大しました。ロベコでは、ベータをアンダーウェイトとするタイミングを早まったことは認めざるを得ませんが、このポジションを継続保有することに違和感はありません。現在のスプレッド水準では、ベータを小幅にアンダーウェイトとするコストは限定的です。
利回り追求の動きはスプレッドの大幅な縮小につながり、問題を抱えたクレジットでさえパフォーマンスは良好に推移しています。
「負けないことによって勝つ」という格言にしたがって投資するボトムアップの運用者にとって、現在は決して容易な運用環境ではありません。ロベコでは、市場が転機を迎え、優良な銘柄とそうでない銘柄が差別化されるようになった段階で、これまでのクレジットの分析作業が報われるという信念を拠り所としています。
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