23-06-2021 · 四半期アウトルック

クレジット・アウトルック:謙虚な姿勢で臨む

未知なもの、経済活動の再開がもたらした混乱に対しては謙虚な姿勢で臨むのがベストでしょう。

経済活動の再開がもたらした混乱は甚大なものであり、著名なエコノミストや中央銀行関係者でさえも、見解を変えて明言を避けるようになっています。このような時期には、未知なものに対しては謙虚な姿勢で臨み、木の中から森を見極めることが困難な場合もあると、受け入れるのがベストでしょう。

はっきりしていることもあります。アクシデントがない限り、今年度の米国の名目GDP成長率は前年比10%に達する見通しです。もっとも、鉱工業生産がピークアウトしつつあるようであり、また、財政推進力(財政スタンスの前年比変化)の流れは、まず中国において、続いて米国において変化する方向です。つまり、市場には足元の完全な回復が織り込まれる一方で、先行きの不確実性は反映されていないことになります。

各国政府はこの16カ月間に、かつてなく強い権限を獲得しました。コロナ後の世界において、大きな政府の時代を持続させることに前向きな首脳もいるかもしれません。「新自由主義」に基づく放任的な時代が40年間続いた後だけに、法人税率の引き上げ、中央集権的な経済運営、自由市場への干渉には、いずれも違和感を覚えます。

一部の独占的な大企業に対する締め付けは、強化されるようです。一方、企業の利益や利ざやを犠牲にする形で、GDPの中で労働者の重要性は拡大する可能性があります。ロベコの分析においては、そのような証拠は確認されていませんが、数年かけて移行しつつあるのかもしれません。インフレ上昇のコンセンサス・シナリオには疑念の余地が残るものの、長期的なインフレ見通しは不透明な状況です。ワクチン接種が成功裏に完了した場合、コロナ後の世界では、現在の多くのトレンドが大きく変わる可能性があります。クレジット・スプレッドが歴史的に最もタイトな水準まで縮小したことを踏まえて、慎重な姿勢でポジショニングに臨むことが肝要であると考えます。もっとも、今年は退屈な展開か弱含む展開になる見通しです(前者の公算大)。

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ファンダメンタルズの状況はかなり前から十分認識されてきた

最近のFRBのコミュニケーションにおいて、テーパリング(量的緩和の縮小)のタイミングと将来の利上げのタイミングおよび規模について、さまざまな意見の存在が確認されました。現時点ではテーパリングに向けた議論の開始について議論するのが適切であると、パウエル議長は結論付けています。インフレ関連のコメントを見る限り、FRBの声明にはいくぶんタカ派的な印象を受けます。1回のFOMCの結果に過ぎないとは言え、トーンの変化が永続化する可能性に、市場は極めて神経質になるとみられます。FRBのスタッフも謙虚な姿勢の必要性を示唆するなど、FRBにとっても不確実性の高い時代と言えるでしょう。

インフレの上昇が一時的な現象にとどまらないのであれば、何が起きるのでしょうか。実際、特に財政や労働市場に関連して、インフレの長期化につながる潜在的な要因が見受けられます。

同時に、インフレに対して過剰に反応すべきではありません。1970年代のようなインフレ上昇期に戻ることは考えられません。技術開発の進行、比較優位性の法則、単位労働コストの裁定、民間セクターにおける収益獲得のモチベーション、西側諸国における人口動態の変化、1970年代対比での労働者の立場の弱体化などの要因の方が支配的であると、ロベコでは考えています。

景気サイクルに関しては、景気回復の現在のフェーズにはこれ以上の改善が見込まれないというのが、ファンダメンタルズの項の結論です。現在、景気後退期の終了後、まだ数四半期しか経過していませんが、前述の議論はかなり前から十分認識され、分析されてきたことに、ロベコでは懸念を抱いています。失望を招く結果となったり、テーパリングが前倒しされたりしたら、どうなるのでしょうか。

バリュエーションは脆弱さを示唆

クレジット市場では、この数カ月間は超過リターンがわずかながらプラスであったことは明らかなようです。その意味では、ベータのポジションを縮小するタイミングが早すぎたようですが、一方で、確率的に将来の期待リターンがさらに悪化するとの主張がさらに説得力を増しています。今年は退屈な展開か弱含む展開になると主張しましたが、前者の公算が大きく、それが最善のシナリオのようです。現在のスプレッド水準では、ベータを小幅にアンダーウェイトとするコストは限定的であり、損益分岐点は大幅に下がっています。

銘柄選択の成果は良好と言えますが、率直に言って、数カ月前と比べて特異性のある銘柄の数は減少しています。全般に、経済活動の再開が取引のテーマとされていますが、航空やクルーズ船、娯楽などの高リスク・セクターでさえも、コロナ前の水準に総じて回復しています。スプレッドが全面的に縮小する展開になっています。

クレジット市場全体の中では、新興国クレジットのラリーにいくぶん遅れが生じているため、アップサイドが見受けられます。アルゼンチンやトルコのように難局に直面しているソブリンも存在しますが、エネルギー・セクターなどには依然として投資妙味が存在するようです。世界の社債や金融債の中には、追加的なリサーチによってロング・ポジションをとる価値のある、個別性の高い状況も引き続き散見されます。

バリュエーションの項の結論として、失敗の余地は再び小さくなっています。FRBは5月の金融安定報告書の中で、多くの市場では足元のバリュエーションはリスク許容度の悪化の影響を受けやすい状況にあることを指摘しています。ここでも再び、想定外の展開を常に想定することの重要性が想起されます。市場はそのように動くものです。

ロベコではベータを小幅にアンダーウェイトとする方針を掲げています。銘柄選択によって相応のリターンを稼ぎ、一定のアウトパフォーマンスが実現するように、小幅にとどめる意向です。

確証バイアスに注意

超過リターンは何カ月もの間、プラスの水準で推移しています。このため、この状況が続くのではないかと思うようになるのも、意外なことではありません。実際に、確証バイアスが作用しているため、長期にわたってプラス圏内で推移する超過リターンがマイナスに転じることを正当化、説明するのは、一段と困難になっています。このような時期には、チーム内の議論が白熱化します。また、現在は、謙虚な姿勢で臨み、先行きの多くの不確実性を受け入れるべきタイミングと言えるでしょう。

結論として、テクニカルは引き続き堅固な状態です。ロベコでは現状からの変化に対して懸念しています。ファンダメンタルズとテクニカルの状況はいずれも十分に認識されているため、今年の6月が買いの好機になるとは考えていません。買いの好機と言えば、過去13年間において、大きな好機が5回到来しました。平均すると、2.6年に1回の頻度になります。逆張り色が強いアクティブなクレジット・チームにとっての豆知識に過ぎませんが。

慎重な姿勢が必要

クレジット市場から得られるのは、クーポンの超過リターン程度になる公算が濃厚です。言い換えると、退屈な年になるということです。ポジショニングにおいては慎重な姿勢が好ましいでしょう。クレジット市場では、「全てが青信号」という見方が幅広く共有されています。既に市場では、テールリスクに見合うリターンを確保することは不可能であり、ネガティブ・サプライズに対して脆弱な状態にあります。確証バイアスが支配しています。

ベータに関しては、アンダーウェイトの方向に極端に傾けているわけではなく、1を小幅に下回る水準に保っています。市場では銘柄間格差が非常に小さく、リスクの高い銘柄を選択するメリットは限定的です。このような環境においても、銀行セクター、新型コロナウイルスからの回復にかけるトレード、一部の個別性の高い案件には、投資機会が見受けられます。このスタンスは、クレジット市場における全てのカテゴリーに共通します。

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