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ファクター投資を取り巻く論争:ファクタープレミアムは消滅するか

ファクター投資を取り巻く論争:ファクタープレミアムは消滅するか

27-12-2019 | インサイト
ファクター投資の採用が広がるなか、ファクタープレミアムは裁定取引によっていずれ消滅してしまうであろうという、非難めいた議論をよく耳にします。近年いくつかの主要ファクターのパフォーマンスが劣後したことや、投資の密集を示す証拠が見られることも、こうした懸念を助長しています。
  • Yann Morell Y Alcover
    Yann
    Morell Y Alcover
    Investment Writer

要点

  • 足下でファクターのパフォーマンスが平凡であることから、疑念を持つ人が出ています。
  • これまでのところ、ファクターの効果が薄れていることを示す証拠はほとんど見出されていません。
  • 各ファクターの存在を立証する理論的根拠を解きほぐすことが重要です。

ファクター投資が依拠するアノマリーは、そのファクターの恩恵を享受するように設計された運用戦略に多くの資金が流入するにつれて、消失する可能性があります。少なくとも、理屈上はそのように言われています。例えば、低リスク株式が長期的には高リスク株式を凌ぐリターンをもたらす傾向にあることに、多くの投資家が気づき始めれば、低リスク株式に投資を振り向けるようになるかもしれません。それが、リターンの上昇余地を縮小させ、バリュエーションを押し上げる結果となるかもしれません。

研究論文の中には、実際に、学術誌などで一旦存在が公表されたアノマリーは、その現象が縮小していく傾向にあると主張しているものもあります1 。それは、時間の経過とともに、よく知られたファクタープレミアムの終焉にさえつながるかもしれません。一方、いくつかのファクター、特にバリュー(囲み1参照)のパフォーマンスがここ数年平凡であったことも、研究者と投資家双方の間でかなりの不信感を呼び起こしています。

サイズは消滅したのでしょうか。バリューは消滅したのでしょうか。こうした問いかけが、ここ数ヵ月の間に、金融メディアの記事、証券会社や運用機関による顧客向けレポートから、専門家審査のある科学雑誌に発表された研究論文に至るまで、多くの文献において提起されてきました2。これまでのところ、ファクターの消滅を決定的事実と断定しているものはありませんが、ファクター消滅の可能性に対する懸念は依然として払しょくされていません。

では、ファクターは裁定取引によって、やがては否応なく消滅してしまうのでしょうか。それほどすぐに消えてしまうことはありません。第1に、学術誌で一旦存在が公表されたアノマリーは衰退していく傾向にあると主張する研究論文がある一方で、この結論に意義を唱える論文も存在します3。また、ファクタープレミアムが長期にわたり持続することを立証する論文 4や、アノマリーの中にはひたすら拡大し続けるものも存在する、と唱える研究論文5もあるのです。

第2に、中には密集の兆候が見られるファクター戦略もあるかもしれないものの、バリュー、モメンタム、低リスク、クオリティなど、よく知られたファクターに、密集の実証的証拠が見られないことは明白に分かっています。一部の研究論文の中には、こうした懸念が明らかに誇張されていると指摘するものもあります6

ファクタープレミアムは時間の経過とともに変わります。

第3に、ファクタープレミアムは時間の経過とともに変わります。大方の予想に反して近年バリューの不調が続きましたが、そのことに多くの専門家が驚かなかった理由はそこにあります。パフォーマンス低迷が長期間続くことは、それほど遠くない過去にも起こりました。1930年代のほぼ全期間を通じて米国株式へのバリュー投資が機能しなかったことは有名ですが、実際のところ、1990年代の大半の期間でも機能していませんでした7

低リスクやモメンタムといった、よく知られた他のファクターについても、同様にパフォーマンスが劣後した期間が見られます。例えば、低ボラティリティ株式は、長期的には高ボラティリティ株式のパフォーマンスを上回ることが立証されていますが、10年単位で詳細分析を行うと、米国の高ボラティリティ株式が、1940年代、1950年代、1990年代には低ボラティリティ株式のパフォーマンスを上回っていたことも分かりました8

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経済的論拠に注目

最終的には、ファクタープレミアムの持続が期待できるかどうかは、それぞれのアノマリーの経済的論拠に左右されます。ファクターの存在は、一般的にリスクに起因、もしくは行動に起因する、といういずれかで説明することができます。言い換えれば、ファクタープレミアムは、リスクの代償として、あるいは、投資家の非合理的行動により不適正な価格が付いた結果として捉えることができます。

ファクタープレミアムが追加的なリスクに対する合理性のある代償であるならば、そのファクタープレミアムは消滅することはないはずです。プレミアムの源泉となるリスクを取ることにこれまで消極的であった投資家にとっては、より高リターンが期待できるとしても、高リスクの銘柄を回避する方が合理的であり、実際のところそうし続けると考えられます。それが価格を抑え、プレミアムを持続させることにつながります。

反対に、ファクタープレミアムが、投資コミュニティ全体が非合理で誤った行動を体系的に取った結果である場合、プレミアムがいくらか減少するのも論理的と思われます。その場合、少なくとも一部の投資家は、自身の行動を修正することにより、非合理的な誤った行動がもたらす恩恵を享受することができるはずです。これが価格を押し上げ、期待リターンを押し下げることにつながります。

一方、第3の説明として挙げられるのが、いわゆる「裁定取引への制限」に関連した合理的な行動に起因する、というものです。大部分の投資家には、例えばレバレッジ、空売り、ベンチマークからの乖離などに関する、厳しい投資上の制約が課されています。これらの制限の存在により、なぜ不適正な価格が付くことがあるのか、なぜ多くの投資家はその恩恵を享受することができないのか、なぜプレミアムが持続するのかといった疑問にも説明がつくのです。

どの説明が最も有効かについては、依然として白熱した議論が続いています。

どの説明が最も有効かについては、依然として白熱した議論が続いています。効率的市場仮説の信奉者が、リスクに基づく説明のみを念頭に置いている一方、行動的要因の支持者は、不適正な価格形成の方を想定しがちです。一方で、合理的な投資家行動こそが、最も広く認められるファクタープレミアムの源泉である、と指摘する調査研究が増加しています9

この疑問に対する決定的な回答が近いうちに導き出されることはおそらくないでしょう。どの説明が有効であるかという議論は、短期的には継続するものと思われます。しかし、前述のとおり、プレミアムの存在を説明する、有力かつ説得力のある理論の候補は数多くあります。プレミアムの源泉は、実際のところ、おそらくこれらの理論に含まれる要素を組み合わせたものなのでしょう。

投資家はどう対応すべきか(ロベコの見解)

実践的な観点からは、投資家は、十分に調査研究され文献化されているファクターを対象とすべきです。リスクに起因するものであれ行動に起因するものであれ、長期的持続性を立証するような、しっかりした経済的論拠が示されているファクターです。以下の図表は、よく知られた6つの株式ファクターに関する、最も一般的な説明をまとめたものです 10

図表1:6つの一般的な株式ファクターの説明

出所:ERI ScientificBeta、「Adding Value with factor Indices: sound design choices and explicit risk-control options matter」、研究論文、2019年4月

これらの理論は、投資家がファクタープレミアムの存在を広く認識している場合でも、その存続が期待できることを示唆しています。たとえプレミアムの存在を確信していても、それを追求しようとしない投資家もいると考えられます。その理由は、単純に付随リスクを回避したい場合もあれば、組織的な制約によって、行動バイアスに対抗する投資行動が制限されている場合もあるでしょう。一方で、投資の密集という問題が表面化する可能性もあります。しかしながら、それはまた別の課題であるため、当シリーズの今後の記事で取り上げましょう。

1例えば、Schwert, G.W.、2002年、「Anomalies and market efficiency (アノマリーと市場の効率性)」(NBERワーキングペーパー No.9277)を参照のこと。また、Mclean, R.D.、Pontiff, J.、2016年、「Does academic research destroy stock return predictability?(学術研究は株式リターンの予測可能性を消失させるか?)」(Journal of Finance)も参照。
2例えば、Taylor, D., Bond, G., Lin, C., and Wang, S.、「Is value dead (again)?:バリューは(再び)消滅したのか?」、Man Numeric note, Man Institute(2018年9月)を参照のこと。
3例えば、Jacobs, H. and Muller, S.、2019年、「Anomalies across the globe: once public, no longer existent?(世界中のアノマリー:一旦公表されると消滅する?)」、Journal of Financial Economics (近刊予定)を参照のこと。
4例えば、Baltussen, G., Swinkels, L., Van Vliet, P.、2019年、「Global Factor Premiums (グローバル・ファクタープレミアム)」(調査報告書)を参照のこと。
5例えば、Blitz, D., Pang, J. and Van Vliet, P.、2013年、「The volatility effect in emerging markets (新興国市場におけるボラティリティ効果)」(新興国市場レビュー)を参照のこと。
6例えば、Blitz, D.、2018年、「Are hedge funds on the other side of the low-volatility trade?(低ボラティリティ取引の相手方にいるのはヘッジファンドか?)」(The Journal of Alternative Investments)を参照のこと。
7詳細については、ロベコが先頃公開した記事「Uncovering the promises and challenges of factor investing (ファクター投資の有望性と課題を解きほぐす)」を参照のこと。
8詳細は、Van Vliet, P.、2012年、「Low-volatility investing: a long-term perspective (低ボラティリティ投資:長期的見通し)」(ロベコ研究論文)を参照のこと。
9例えば、Baker, M., Bradley, B. and Wurgler, J.、2011年、「Benchmarks as Limits to Arbitrage: Understanding the Low-Volatility Anomaly (裁定取引への制限としてのベンチマーク:低ボラティリティ・アノマリーの理解)」(Financial Analyst Journal)を参照のこと。また、Li, X. and Sullivan, R. N.、2011年、「The limits to arbitrage revisited: The accrual and asset growth anomalies」(Financial Analyst Journal)も参照。
10各運用機関や指数プロバイダーが重視するファクターは、各社独自の調査研究、各ファクターへの確信度合等によって異なることがあります。例えば、ロベコのクオンツ株式戦略では、バリュー、モメンタム、クオリティ、低ボラティリティという4つのファクターを対象としています。

囲み1:直近のバリューのパフォーマンス低迷の謎を解く

バリューは最も多く文献化されてきたファクターの1つであり、バリュー投資はファクターに基づくアプローチの中でもとりわけ広く普及しています。しかし、直近のパフォーマンス低迷をきっかけに、バリューの持続性に対する疑念が巻き起こっています。バリュー・ファクターは、裁定取引によって消滅してしまったのでしょうか。それとも、経済環境の劇的変化により、バリュー・ファクターは意味を持たなくなってしまったのでしょうか。

確かに、バリュー投資の人気の高まりや、このアプローチを採る運用資産の増加、また経済環境の変化は、パフォーマンスに一定の影響をもたらしています。しかしながら、バリューが陳腐化する可能性は低いと言えます。第1に、バリューの存在の根拠として最も頻繁に引用される説明は、リスクに起因するという説、行動に起因するという説の双方とも、依然として今も成り立っています。

第2に、株式プレミアムそのものと同様、ファクターのパフォーマンスは長期にわたり一定なものではありません。パフォーマンス劣後の時期が数年間続く場合もあるのです。バリューも例外ではありません。成長企業が、バリュエーションに反映された投資家の高い期待に応えることができる時期もあります。近年の、特に米国の大手テクノロジー企業は、これに当てはまります。

しかしながら、このようにグロースのパフォーマンスが上回る時期は例外であり、これが通例ではありません。大半の期間で、割高なグロース株式はバリュー株式のパフォーマンスを下回り、投資家を失望させる結果に終わっているのです。実際のところ、グロースが時折上昇しなければ、誰もがバリュー投資を選好し、バリュープレミアムは消滅するでしょう。

最後に、現在のバリュー株式のパフォーマンスが振るわない状況は、過去百年の中でも最も長引いているかもしれませんが、決して最も厳しい状況という訳ではありません。バリュー株式は、2010年5月に劣後し始めました。従って、パフォーマンス劣後期間が2番目に長かった1937年から1940年までの期間に比べても、既に2倍の長さに達しています。しかし、1932~1935年や1990年代のテクノロジー・バブルの頃など、アンダーパフォーマンスの累積が今以上に大きくなっていた時期もありました。

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