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金融債はバリュートラップか

クレジット投資に関する9つの疑問点 | Q7

金融債はバリュートラップか

2023年に米国の銀行セクターにおいて生じた混乱は、世界金融危機以降で最も深刻な金融システムの動揺に発展しました。その影響は、リスクに対する認識、クレジット市場のバリュエーション、規制の動向にも波及し、さらに重要な点として、銀行セクターの安定性に対する疑念が生じる結果となりました。混乱は概ね終息したように見えますが、疑問点も残ります:欧州の金融債は割安な投資機会でしょうか、それともファンダメンタルズの問題が潜むバリュートラップ(割安のわな)なのでしょうか。

欧州の金融債: 現在の環境

2023年3月に米国の地銀セクターに対する懸念が浮上し、一方でクレディ・スイスが発行したAT1 CoCo債(偶発転換社債)の元本が削減されて以降、金融債のスプレッドはタイトニングの傾向にありますが、欧州の銀行と保険会社が発行する債券には依然として事業債対比で魅力的なプレミアムが上乗せされていると、ロベコは見ています。これは下図から見て取ることができます。下図では、銀行と保険会社が発行する各種の劣後債のクレジット・スプレッドを示しました。

金融債のスプレッドは、最近の市場の上昇局面を経ても、同セクターの長期的な中央値や事業債のスプレッドと比べてワイドな水準で取引されています。この背景にはいくつかの要因が考えられます。はじめに、銀行セクターは平均的な業種よりもベータが高いため、変動が大きく、市場の動きに対してより敏感に反応する傾向があります。したがって、欧州の経済成長見通しに懸念が生じると、投資家は潜在的な信用損失について懸念するようになり、金融債のスプレッドは拡大する傾向があります。

次に、欧州の経済成長見通しが米国よりも低調であることが、金融債の追加的なスプレッド拡大要因となっています。また、昨年苦境に陥ったクレディ・スイスや米国の地方銀行の事例や、商業用不動産セクターに過大なエクスポージャーを抱える銀行など、個別の銀行に対する懸念が、金融債全般のスプレッド拡大につながることがあります。さらに、ここ数年間に、銀行債が事業債対比で大量に発行されたことも、プレミアムが生じる一因となっています。

金融債のスプレッド

金融債のスプレッド

出所: ロベコ、ブルームバーグ。2024年2月時点。上記で使用したインデックス:ブルームバーグ欧州銀行AT1 coco債インデックス、ブルームバーグ欧州銀行LT 2債インデックス、ブルームバーグ欧州銀行シニア債インデックス、ブルームバーグ欧州保険債インデックス。

リスク・リターン特性が最も優れた金融銘柄

はじめに、欧州銀行セクターのファンダメンタルズを検証してみましょう。ほとんどの銀行が最近の金利上昇から多大な恩恵を受け、利益を拡大しています。金利がさらに大幅に上昇する展開をロベコは想定していませんが、欧州の銀行には他の収益源によって利益を下支えする余地があります。また、堅固な自己資本水準を維持しているため、自己資本比率が危機的な状況に陥る前に、損失を吸収することが可能です。資産の質も総じて良好です。

もっとも、クレジット投資家としては、綿密なデューデリジェンスを行うことが欠かせません。ロベコでは、集中度が高い商業用不動産(CRE)ローン・ポートフォリオを有するドイツの一部の不動産専門銀行や、規制が緩い米国の地方銀行のように、商業用不動産セクターに過大なエクスポージャーを抱える銀行を回避しています。その一方、商業用不動産向けエクスポージャーが限定的あるいは管理可能な水準にある、比較的規模の大きい欧州の銀行を選好しています。

資本構成においては、現在、LT2(下位Tier 2)債やAT1 CoCo債よりも銀行シニア債を選好しています。AT1 CoCo債のパフォーマンスは良好であり、2023年3月以前の水準を回復していますが、このような証券への投資に際しては選別的な姿勢を強めています。詳細につきましては、先日開催したウェビナー(英語)をご視聴ください

銀行債以外では、保険セクターのファンダメンタルズも良好であると考えています。ロベコのエクスポージャーは、バランスの取れたビジネスモデル、多角的な収益プロファイル、堅固な自己資本基盤を有する保険会社に集中しています。2024年に金利は徐々に低下するものの、保険会社の業績が大幅に下押しされる可能性は低く、ほとんどの保険会社は堅固な自己資本基盤を維持する見通しです。

保険セクターでは、保険料率の規律ある見直しによって、営業収益が下支えされると予想しています。過去2年間、保険金請求額は高水準で推移してきましたが、今後は保険料率の正常化が保険引き受け業務の収益性回復に寄与すると考えられます。加えて、現在の高金利環境は、引き続き投資収入への追い風となっています。

今後の展望

割安感のあるクレジットには、低評価となる根本的な要因がある場合もあるため、クレジット投資家としてはバリュートラップを避けることが極めて重要です。しかしながら、欧州の金融セクターがそのような状況にあるとは考えていません。欧州の経済成長見通しは他地域と比べて低調ですが、欧州の銀行債と保険債のファンダメンタルズは依然として堅固です。ロベコは、現在のバリュエーションには、経済成長率の低下に伴うリスクが十分に織り込まれていると見ています。そうは言っても、すべての金融機関の状況が同じでないことは認識する必要があります。クレジット投資家としては、銀行債や保険債に投資するに先立って、綿密なクレジット分析を行うことが欠かせません。