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債券アウトルック:マルチプル・シグマ・イベントの再来

債券アウトルック:マルチプル・シグマ・イベントの再来

15-12-2021 | 四半期アウトルック
債券市場全体にはいくつかのマルチプル・シグマ・イベントが見受けられます。このような環境においては、視野を広げた上で、不均衡な状態を模索するアプローチを採用するべきでしょう。
  • James Stuttard
    James
    Stuttard
    Head of Global Macro team and Portfolio Manager
  • Michiel de Bruin
    Michiel
    de Bruin
    Portfolio Manager Global Macro Fixed Income
  • Bob Stoutjesdijk
    Bob
    Stoutjesdijk
    Analyst

要点

  • 新型コロナウイルスの動向によってこれまでコンセンサスだった見方が揺るがされることに
  • その結果、長期債利回りは10カ月前と同様の水準で推移
  • 一方、中国関連の問題が重しとなってクレジット市場には割高感が台頭

2022年を目前に控え、グローバルな債券市場ではボラティリティが上昇傾向にあります。短期年限のユーロドル先物価格は1日で25bps変動し、米ドルは対トルコ・リラで急激かつ無秩序な状態で上昇し、中国のハイイールド債のスプレッドは2008年における米国のハイイールド債の水準を既に上回っています。10年債利回りは10カ月前と同様の水準で推移しているものの、世界の債券市場全体を見渡すと、マルチプル・シグマ・イベント(複数の標準偏差(σ:シグマ)で表されるような極端に発生確率の低いイベント)の再来が確認されます。 

9月に公表したグローバル債券マクロ・アウトルック「トンネル・ビジョン(視野狭窄)」において、債券市場がインフレ動向にとらわれていること、米国債のベア・スティープニングのポジションが選好されていること、クレジットのオーバーウエイトがコンセンサスとなっていることについて議論しました。また、心理学者のクリストファー・チャブリス氏(ハーバード大学)とダニエル・シモンズ氏(コーネル大学)が「見えないゴリラの実験」において、選択的注意の役割を示したことについて指摘しました。人間は認知的に1つの対象にのみ集中し、他の対象への気づきや考慮を犠牲にしてしまう場合があることを意味する概念です。

その後、債券市場は視野を広げるようになったようです。11月半ばに中欧、北欧諸国において初めてロックダウン措置が適用されたこと、米国債のイールドカーブが大幅にフラットニングしていること、長期年限にショートカバー(売りポジションの解消)の動きが確認されることを踏まえると、異論の余地はあるにしても、スティープナーはペイン・トレードとして主流ではなくなりました。長期年限の米国債は、今年1月時点のフォワードの水準近辺で取引されています。もっとも、短期的には、変化のプロセスは完了していないように思われます。足元におけるオミクロン株の感染拡大を受けて各国の債券利回りが急低下した状況を見る限り、債券投資家は負債対比で必要な規模の債券を積み上げていないように思われます。

2022年に向けて、市場は何かを見逃しているのでしょうか。ここでは3つのテーマを指摘します。1つ目のテーマは、中国のクレジット市場における次の動きです。9月には、中国において不動産セクターのハイイールド債のボラティリティが上昇するリスクを指摘しました。幅広い不動産関連のデフォルトが織り込まれ、景気の減速が続く中で、中小の銀行や地方政府に対して影響がどのように波及するのかが注目されています。結局のところ、銀行業務においては、どの債務者にも対応する債権者が必ず存在します。一方、地方政府の状況を見ると、国有地使用権の販売は半減しています。2つ目のテーマとして、ほとんどの市場参加者は、新型コロナウイルスに対する想定を見直す必要があると考えます。3つ目のテーマとして、(繰り返しとなる)米国の債務上限問題、英領北アイルランドとの貿易を巡る英国と欧州間の対立(北アイルランド議定書第16条発動の有無)、そして、ポーランドの主権問題、ベラルーシの地政学リスク、ロシアとウクライナの緊張関係、トルコにおける金融政策と政治の対立といったEU東部に存在する幅広い火種など、数多くの政治的、地政学的なリスクが見受けられます。3つ目のテーマに関しては、真の意味で世界的規模のサプライズに発展しうるのは米国の債務上限問題に限られますが、局地的にボラティリティが高まる可能性は否定できず、多くの状況が同時に悪化すれば、リスクオフの傾向が強まるおそれがあります。 

この3つの要因は、引き続き活発なインフレを巡る議論の代わりとしてではなく、並行して考慮するべきでしょう。9月にアウトルックを公表して以来、米国の中古車価格は上昇傾向にあり、欧州の天然ガス価格は、地政学関連の不測の事態を十分に想定していなかった可能性のある炭化水素の移行期にあって、高止まりしています。また、サプライチェーンの混乱が続く一方で、労働市場における需給のミスマッチが解消されない米国では、所得水準が最も低い層の賃金が引き続き急速に上昇しています。さらに、賃料のインフレにも上昇傾向が見られます。2022年には、これらの不確定要素の動向が、パンデミックの危機対応である緩和策の巻き戻しを図る中央銀行の政策に、影響を与える見通しです。総じて言えば、足元でユーロ圏のインフレ率がピークに達したのに対して、米国のインフレ率は2022年上期においても高止まりすると予想しています。2022年下期に入ると、ベース効果やサプライチェーン混乱の影響が和らぐ結果、インフレは世界的に落ち着きを見せるものの、過去10年間の平均的な水準を上回ると予想しています。もっとも、インフレ期待に関しては、実態よりも速いペースで織り込む作業が進んでいるように思われます。  

新型コロナウイルス関連では、南アフリカの科学者が最新の変異株を発見して以来、事態は急速に進展しています。変異株の名称は、11月26日には「ニュー(Nu)」株に決定されたものの、その後24時間以内に「オミクロン(omicron)」株に変更されました(世界保健機関(WHO)はギリシャ文字のアルファベットの14番目をスキップしています)。命名法はさておき、足元の展開は、よりダイナミックなスタンスをとることの重要性を示していると考えられます。結局のところ、オミクロンは最後の変異株ではなく、最後の懸念すべき変異株になる可能性は低いとみられます。「パイ(pi)」、「ロー(rho)」、「シグマ(sigma)」というように変異が進む可能性を否定するのは過度に楽観的であり、「オメガ(omega)」まで達して(スキップされた文字を除く)アルファベット24文字全てが使われた後に、「ニュー・アルファ(あるいはそれに相当する名称)」に戻ることも十分考えられます。(未発生ではあるものの、発生することが合理的に予想可能な)将来の新変異株がワクチンの有効性に打撃を与えるかどうか、感染性の前提を変えるかどうかはわかりません。しかしながら、市場において、今後シナリオの展開を想定した上で、各シナリオに付与されたリスク・プレミアムを織り込む作業が進まなければ、(11月下旬に発生したような)マルチプル・シグマ・イベントは再発することになるでしょう。ロベコでは、3カ月ほど前に引用したテルアビブ大学の論文のアプローチに基づき、基本シナリオとして、市場においてウイルスの重要性が減少するには、世界の人口が十分な水準の粘膜免疫を獲得する必要が生じると予想しています。これは単純な推定ではなく、科学的知見を反映させた予測です。 

要約すると、債券市場全体にはいくつかのマルチプル・シグマ・イベントが見受けられます。このような環境においては、視野を広げた上で、不均衡な状態を模索するアプローチを採用するべきでしょう。大規模な緩和策が必要になる可能性を踏まえて、中国国債のデュレーションをロングする戦略などが考えられます。反対に、日本国債の長期ゾーンは極めて不均衡な状態にあり、インフレ上昇局面が長期化した場合には、金利上昇リスクにさらされているとみています。一方、欧州国債間の比較では、ECBの資産買い入れプログラムは継続中であるものの、2022年上期に、まずイタリアで、続いてフランスで政治イベントが待ち受けているため、両国の国債をアンダーウエイトとするポジションが考えられます。米国債とドイツ国債に関しては、引き続きフラットナーのポジションを選好しています。ただし、米国債については、バリューは2年/5年にシフトしたとみています。 

クレジット市場では、ユーロと米ドルの投資適格債およびハイイールド債のスプレッドは拡大に転じたようであり、多くのセルサイド・ストラテジストはより慎重な見方にシフトし始めています。バイサイドは依然としてクレジットを総じてオーバーウエイトとしているため、市場の見方が変化する可能性は高いとみられます。リアルマネー投資家の大規模なポートフォリオの変化は、ストラテジストが何か執筆するよりも大きな影響を市場に与える傾向があるため、ここでも市場への影響が想定されます。 

アジアのクレジット市場では、地方債や中小規模の銀行に影響が波及するかどうかが、重要な問題となります。中国の投資適格金融債のスプレッドは極めて不均衡な状態にあり、セクターの深刻な景気後退や広範なデフォルト発生を既に織り込んだハイイールド債のスプレッドとは、前提条件が大きく異なります。このように、足元の市場では、プライシングが不思議なほど区分けされているため、中国の投資適格金融債の見通しは極めて不均衡な状態であり、ポートフォリオに弱気見通しを反映させるには適したタイミングと言えます。一方、新興国市場は、インフレ懸念が再燃した場合の米ドル高シナリオに対して、あるいは中国のハードランディング・シナリオに対して、脆弱な状態にあるようです。

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