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20-12-2023 · 四半期アウトルック

クレジット・アウトルック:1990年代を彷彿とさせる狂乱相場

弱気な見方を撤回するエコノミストやストラテジストが増える環境では、慎重なスタンスを堅持するのが引き続き賢明であると考えます。1990年代半ばの例外的ケースを除き、中央銀行の引締めサイクルはほぼ確実に景気後退につながるという教訓を、歴史は教えてくれます。

    執筆者

  • Sander Bus - CIO High Yield, Portfolio Manager

    Sander Bus

    CIO High Yield, Portfolio Manager

  • Reinout Schapers - Portfolio Manager

    Reinout Schapers

    Portfolio Manager

現在、市場は最善のシナリオを織り込んでいます。スプレッドが大きく動いた結果、米国のクレジット市場では、最も割高な水準に突入したか、その過程にあるセクターが見受けられます。通常であれば、このような状況が観察されるのは現在のような環境ではなく、長期にわたる強気相場の終了時になります。

10~12月期の債券市場の地合いは比較的安定的であり、市場のテクニカルは改善したものの、年初からセンチメントは不安定な状態が続いています。市場価格には非常に楽観的な見通しが織り込まれているため、失望の余地は十分にあります。景気がさらに深刻に減速するか景気後退に陥らない限りは、市場がより大幅に動くことはないでしょう。ロベコでは、ボトムアップの観点からリスク・リターン特性に魅力があると判断したセクターのリスクをとりつつ、全体のポジショニングはより中立的な水準に設定しています。投資適格債のベータを小幅にロングする一方で、ハイイールド債については保守的なポジショニングを堅持しています。

ファンダメンタルズ

企業のファンダメンタルズに注目すると、一部のセクターでは利益率の低下が確認されています。インフレの低下に伴い価格決定力は弱まっているようであり、賃金の調整にはラグが伴うため、今後は利ざやの縮小圧力が強まる可能性があると見ています。昨年は、テクノロジーや重工業などのセクターが、利益率の低下に見舞われました。これまでのところ、雇用の削減に積極的な企業は少数に限られます。パンデミックの期間中に人材確保の難しさを経験し、また、財務余力が健全な水準まで回復しているため、各社は労働コストの削減よりも利益率の低下を受け入れるようになっています。セクターによっては、人材を維持する余裕が失われる可能性があります。

世界的に銀行セクターは比較的割安な水準にあります。

2024年に入ると、債券市場ではリファイナンスを必要とする企業が増えるため、影響はほどなく目立つようになるでしょう。金利の上昇は、レバレッジの高い企業の財務に多大な影響を及ぼすと予想されます。投資適格企業については、ほとんどの場合、影響は限定的な範囲にとどまる見通しですが、資本配分の調整が必要な企業も存在します。例えば、通信タワーや再生可能エネルギーなどの分野におけるインフラ企業は、金利の上昇を受けて、バランスシートの調整を余儀なくされています。このような環境では、勝ち組と負け組に二分されるのは明らかです。

バリュエーション

世界的に銀行セクターは比較的割安な水準にあります。なかでも、銀行シニア債には全般に出遅れ感が目立ち、割安な状態にあると考えられます。また、AT1(その他Tier1)債のパフォーマンスは非常に良好であり、スプレッドは過去平均を下回るものの、今年の3月以前よりは依然として高い水準で推移しています。ここ数カ月間、CCC格の債券はアンダーパフォームしています。その結果、B格/BB格の債券とのスプレッド格差は拡大しましたが、だからといってエクスポージャーを積み増すタイミングというわけではありません。多くのCCC格銘柄が“わけあって”割安な水準で取引されています。厳しい利ざやの縮小圧力にさらされている企業や、財務レバレッジが過大な企業も多く、上昇した金利水準でのリファイナンスに支障をきたしています。市場のこの分野では企業固有リスクに関するものであり、トップダウンの観点からアプローチするべきではありません。

クレジット市場に流入する資金は増加傾向にあり、変化はすでに確認されています。

利ざやの縮小圧力にさらされている企業や、足元の金利環境において過大な債務負担を抱えている企業が多いため、格下げや(ハイイールド債の場合は)デフォルトの事例が増えると予想しています。現在の市場環境では、ファンダメンタルズとバリュエーションのバランスを考慮した上で、銘柄の選択に注力することが重要であると考えます。

テクニカル

投資適格債を中心に、クレジット市場に流入する資金は増加傾向にあり、変化はすでに確認されています。投資適格債に関しては、全体の利回りが引き続き魅力的であり、リターンの見通しも良好です。このため、他の多くのリスク資産に匹敵する投資妙味が存在します。需要サイドのテクニカルは非常に良好であるように思われます。一方、悪材料として、中央銀行の量的引き締め(QT)政策は継続する見通しです。FRB、ECB、イングランド銀行はいずれも、バランスシートの縮小を継続する方針を打ち出しています。なかでもECBの場合、大規模な社債保有残高を中期的に解消する必要があります。

最近のクレジット市場と債券市場におけるラリーを受けて、クレジットに対する需要を満たす起債が行われると予想しています。ハイイールド債市場では、大規模な償還スケジュールへの対応が必要になります。利回りは2カ月前より2%近く低下しているため、多くの発行体は償還資金の手当てを進められるようになりますが、財務レバレッジが高い一部の企業はリファイナンスに苦戦すると見られます。一方、投資適格債市場では、平均残存年限が長いため資金調達ニーズが比較的小さいものの、一部の企業は起債に踏み切る可能性があります。この1年間は金利が高い環境において、投資適格企業は長期債の発行に極めて消極的でした。

テクニカルは大幅に改善されました。

新興国市場の状況は大きく異なり、米ドルよりも自国通貨の金利の方が大幅に低いアジア市場を中心に、海外発行の債券を可能な範囲で国内市場において借り換える動きが、すでに見受けられます。その結果、新興国の外貨建て債券市場の規模は徐々に縮小していますが、この傾向は来年も続くと予想しています。

結論

現代史上で最も急激な利上げサイクルが終焉を迎えました。これまでのところ、欧米諸国の経済は変調をきたすことなく、このサイクルを乗り切っています。市場は勝利を宣言し、ソフトランディング・シナリオを全面的に受け入れていますが、ロベコでは、引き締めサイクルの影響が完全には顕在化していない可能性が高いと見て、慎重なスタンスを維持しています。中央銀行は段階的に政策の転換を進めているものの、利下げに着手するのは数カ月後になる見通しです。

市場には楽観的な見通しが織り込まれ、1990年代を彷彿とさせる狂乱相場が続いています。このため、失望の余地は存在し、スプレッドは拡大する可能性があります。しかしながら、景気がさらに深刻に減速するか景気後退に陥らない限りは、市場がより大幅に動くことはないでしょう。そのように景気が悪化する可能性は、引き締めサイクルの影響が緩やかに波及することを踏まえると、依然として無視できないと考えています。

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